パチン、パチンと、一定的なリズムで、それでもたまにほんの少しだけずれたリズムで、 応接室の中にホチキスの音が響く。時折、机に紙を立てて角をそろえる音も聞こえた。 紙には「遅刻指導者リスト」と書かれている。これをクラス別にわけで綴じる作業を昼休みを 潰してまでやっているんだけど。
ただ、少しだけおかしいのが、いつもはソファで向かい合う形でやっている雲雀が何故か今日は あたしの隣に座って、しかも少しだけ距離が、近い。慣れている作業はぐんぐん進むも全然 プリントは減らない。(なんで今月はこんなに遅刻者が多いんだ)もうかれこれ20分以上も 雲雀に寄り添われたまま作業をしている。




「ねぇ雲雀、向こう側のソファに座ってよ、近い」


「嫌だ」


「我侭。そんなんじゃ終わらないよプリント綴じるの、あたし授業はサボらないからね」


「サボればいい、ずっとここにいてよ、




今度はあたしが嫌だと答える番だった。あたしは授業をサボるなんてことは絶対にしない。 そりゃ、雲雀じきじきの呼び出しがかかったりすると授業には出ない(むしろ出れない)が それはなんか知らないけど、サボり扱いにはなっていない。どうせ雲雀の権力が影響してるんだろう。 だからあたしは絶対にサボったりは、しない……多分(あ、やばいちょっと自信ない)


雲雀はプリントの束を投げ出すように机において、そのままあたしの肩に頭を乗せた。 ホチキスを持つ手を止めて横を見れば、雲雀は眉間に皺を寄せたまま目を閉じている。




「ちょっと、人の肩に頭乗せといてその不機嫌そうな顔って何」


「いや……今日、風紀のやつがおかしなこと言ってたから」




どうやら眉間の皺の原因はあたしじゃないらしい。何があったの?と尋ねれば、雲雀は 目をあけて、それでもまだ不機嫌な目で前をぼんやり見ていた。




「今日…風紀の一年が、のこと好きだとか言ってた」


「は……うそ」


「本当だよ、草壁が言ってた。草壁は僕に嘘ついたりしないから、本当」




草壁さんに限らず、並中の生徒と先生、全員雲雀に嘘ついたりなんかしないと思うけどなぁ…… (殺されるでしょそんなことしたら)そんなあたしの考えを余所に、雲雀はイライラとした顔で ポツリポツリ話し始める。
どうやら、朝の見回りのときに草壁さんは風紀の一年同士の会話をたまたま聞いてしまった、らしい。 雲雀は小さく「僕のものに手、出そうとするなんていい度胸してる」と怒りたっぷりに呟いた。 仕方ない、多分あたしと雲雀が付き合ってることを知っている一年なんてごく少数のはずだ。 だったら別に下級生が上級生に恋するなんてどこの世界にもごく普通なこと。ただ、たまたま その相手の彼氏が不良のドンの雲雀だっただけ。




「はぁ……それと雲雀があたしの隣に至近距離で座るのと何の関係が」


「万が一の話だけど……がそいつにとられたら嫌だなって思っただけだよ」


「くだらないねぇ」




くだらないけど重要問題なんだよ、と雲雀はむくれた顔でいった。 部屋には授業の本鈴が響いている。授業、サボっちゃった。まぁ、雲雀と一緒にプリント 作業してたって言えば誰も何も言わないだろう。実際そうなんだから仕方ないし、 なんだか今日は雲雀のそばを離れたくないなぁ、なんて思ってたりも、して、ね。









ただどうしようもなく




君が好きなのです













(2006.12.7)

雲雀で甘えてくる感じで、というリクでした
甘える雲雀を書くのは楽しかったんですがこれは甘えてる…のでしょう、か(…)


倖燗拿さんのみお持ち帰り可です